【ネタバレ感想】『検察側の罪人』木村拓哉という化け物の真骨頂

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映画【検察側の罪人】を一早く観賞してきました。キムタクのファンでも二宮のファンでもありませんがこの映画はとても気になっていたので公開2日目には入場口に並んでしまった自分です(笑)

木村拓哉という人は、独特の口調でしゃべる___何か、間を外すというか、コンマ何秒かのズレというか、揺らぎのようなものがあり、そこでぐっと彼の傍に引っ張り込まれるような印象があります。

彼は、どんな役をやっても『キムタク』というフィルターをかけられてしまう感じがして、いつまでも『アイドル』がお芝居をしている、みたいな評価をされていますが。そういうことを平気で言う人は、ちゃんと作品をお金を払って見ていないんじゃないかと思うのです。

 

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<<ここからはネタバレ注意になります>>




今回の映画『検察側の罪人』の中で、彼は最上(もがみ)というエリート検事を演じています。
冒頭(実は回想シーン)で、彼が教官として若手の検事の育成をしていた時の教え子の一人が、彼の『対』として描かれている沖野(二宮和也)です。

その時点で、彼らの間には圧倒的な、それは経験であり、知識であり、時間であり…という埋めようもない“隔たり”があるのですが。

不思議と最上が纏う空気には嫌味がない。高圧的でもない。

しかし、それから時間を経て『現在』に至っても、沖野は最上には絶対に敵わないんだろう、という予感がひしひしと伝わってくるのです。

そんな最上と沖野が担当することになった事件の容疑者として浮上したのが、かつて最上が追い詰めきれなくて裁けなかった、松倉という男だったのです。

時効が撤廃される前に起きたその事件は、最上が慈しんでいた少女の惨殺という、忘れがたいものでした。

最上は、その男の出現に我を忘れ、己の領分から逸脱した行動に出始め、その異様さに沖野は戸惑い、ついには袂を分かつことになってしまうのです。

ジャニーズという世界で先輩後輩として、長い時間を生きてきた二人だからこその対峙は、彼らだからこその迫力があり、静けさがあり、他の人には醸し出せない空気がそこにありました。

私がこの映画の中でもっとも『おお!』と揺さぶられたのは、本編の大きな流れの中の小さな“瞬間”でした。

現実の検察の仕事のやり方がそのままなのかは解りません。しかし、シーンの中ではまるで学生がレポートを確認して提出する教室のようなしつらえの場所で、上席の検察官が数名机を並べた前に、若手が列をなしてその順番を待っています。

ここで裁可を仰ぎ、起訴できるか否かが決まる、というところでした。

そこで、松倉の事件について話していた最上の背後に、女性の上席検事にかみつくように主張している若手の女性検事が映り込みます。漏れ聞こえるやり取りで、恐らくは性犯罪者の起訴に向けての訴えで、上席は「それでは公判が維持できるかわからない」というようなことを言い、不起訴が妥当だと訴えを突っぱねているのです。

食い下がる若手の背後を抜けていく最上が、その背中をぱん!と叩き、『引くな!』とカツを入れていく、ほんの数秒の彼の声音は『悪を許さん!』という正義そのものでした。

松倉の存在に狂わされていく最上は、しかしギリギリ踏みとどまって、検察官としての正義を貫き通す。だが全力をもって裁きたいと願っていた松倉は彼の手をすり抜けて行ってしまうのです。程なく最上は闇の中に自ら片足を突っ込んでいく。

不思議な縁で繋がりを持った裏社会の男、松重豊さんが演じる諏訪部というブローカーは盲目的に最上に従い、その後押しをします。家族にも部下にも本心を見せない最上は、なぜか諏訪部にだけは心を開き、弱みを見せるのです。

この映画の冒頭は、かつての映画『インセプション』の、摩天楼ひしめく街がぐわりと揺らぐよう幻想的なシーンを思い起こさせるような仕様で東京の街を映しています。その直後に響く最上の声によって、観る側の私たちは逃れることもできず、画面にくぎ付けにされていくのです。

しかし、最上は中心にはいますが、この映画は彼のためのそれではなく、見事な群像劇となっているのです。

木村拓哉さんが主演ではありますが、彼は全面に出ていながらもどこかで一歩引き、半歩引き、物語全体のバランサーとなって立っている、そんな印象が残りました。

原作を読まずに観たので、その最後は衝撃としか言いようがなく。

帰りに文庫の上下巻を買って、数回貪るように読み、もう一度時間を作って観に行きたい、と切望しています。

むしろ“キムタク”が苦手という人にこそ見て頂きたい、原田眞人監督の男の世界でした。

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